「あり得ない」
學生時代、九州で社団法人國民文化研究會の合宿を行ったある年のこと。大型台風が合宿初日から襲來との豫報。二日目朝の講義に故村松剛先生が御登壇されるはずであったが、交通機關が麻痺し、九州入りの見込みが立たない。運營委員が、何度も村松先生に連絡をするが、村松先生はその度、私の講義を待ってゐる學生が一人でもゐるなら、タクシーを乘り繼いでも、必ず行きます、と仰られた。
そして、合宿前日のことだった。既に台風は上陸、緊急運營會議が行はれた。運營委員長が苦澁の決斷をした。もし、村松先生が間に合はない場合は、會員の誰かに講義を依頼したい、と。そこで、當時の理事長、故小田村寅次郎先生が、間髪入れず、會場全員に響き渡る大きな聲で仰った。村松先生は、タクシーを乘り繼いででも、必ずいらっしゃると仰ってゐるのだ、いらっしゃらないといふことなどあり得ないのだ、と。私は、運營委員長の提案も、運営上必要なことだと思ったが、小田村先生の「あり得ない」と仰るお言葉が、胸を突き抜けた。
村松先生は、約束通り、遠く阿蘇まで來て下さった。 テーマ:言霊(格言・名言・自分の考え) - ジャンル:学問・文化・芸術
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