「野獣死すべし」(昭和55年 監督:村川透)
- 2010/01/25(月) 00:04:42
人には人の道がある。宗教であったり、倫理であったり、社會のルールであったり。もし、そこを踏み外すことに快楽を見出し、むしろ徹底して踏み外すことによってのみ己の眞のアイデンティティーは確立するものだと思ひ込んで、そのやうな快楽を貪り始めたらどうなるものか。
主人公は、出版社の戦場カメラマンとして紛争地帯を渡り歩いてゐた。しかし、彼の寫眞は、あまりにも過激で、報道機関で採用されなかった。やがて彼は日本に呼び戻され、飜訳の仕事をあてがはれるが、彼がかつての戦場で達したエクスタシーは、この日本では到底得られるものではなかった。彼は人であることを捨て、彼の言ふ「野獣」となって、殺戮を繰り返す。かつて戦場で人を殺めたことにより達したエクスタシーを求め、眞のアイデンティティーを確立して「神を超える」存在となるために…
主人公の殺戮の片棒を担ぐ青年(鹿賀丈史)の獸のやうな凄まじい形相は、まだ人のやうにも見える。しかし、主人公(松田優作)の死人のやうな、表情のない顏つきは、もはやそれが人のものであるとは思へない。彼は、偶々出會した暴走族風の男とその女、そして片棒の青年の死體が無惨に横たはる暗闇にて、どこからか入り込む蒼い月の光を全身に浴びながら、左手を高々とあげ、静かに人差し指を天に突き上げ、「神を超えた」エクスタシーに浸る。
松田優作は、この主人公の伊達といふ男を強烈に、見事に、見る者の心の中に植ゑ付けた。話が作り話であるか、それとも実際の話であるかなど、もはやどうでもよくなるまでに、演じ切ってしまった。彼がこのやうな人間をこの世に生み出してしまったことを、果たして神はどのやうにご覧になったのであらうか。
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悪のウルトラマンが登場!「ウルトラ銀河伝説」ワーナー配給で12月公開
- 2009/06/19(金) 00:40:10
一見して千円札に折り目を入れて笑い顔にした夏目漱石か、はたまたダースモールか…
6月19日11時45分配信 eiga.com
いかにも悪そうなウルトラマンベリアル (C)2009「大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説」製作委員会
ウルトラマンベリアルは、ウルトラの一族でありながら暗黒の力に魂を奪われ、光の国で反乱を起こしたならず者だ。数万年前にウルトラマンキングの手で永久 牢獄に封じ込められたはずが脱獄し、怪獣を操る能力を駆使して、100体の怪獣を使ってM78星雲・光の国を占領しようと企む。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090619-00000007-eiga-movi
で、すっかり暗黒の力に支配された銀河の片隅で、オビワンが生まれたばかりのルークとレイアを連れて・・・
A long time ago in a galaxy far,
far away....
ジャーン! チャカチャー チャカチャー(以下略)
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忙しいこと!
- 2008/10/25(土) 00:17:22
いや、忙しくて有り難いことです(同業他社はつぶれてるご時世ですし)。
氣分轉換に、15年以上前の、とある作品を探してゐたら、Youtubeにありました。有り難い時代です。これを觀たのは、「エビ天(三宅裕司のえびぞり巨匠天国)」といふ番組でした。ま、觀て笑って、もう一回觀て、今度は歌ってください。
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エクソシスト
- 2008/07/20(日) 00:21:44
エクソシスト
ホラーものが大嫌いな私ですが、これだけは繰り返し觀てゐます。現行のDVDは、公開當時のものと、時を隔ててディレクターズカット版として上映されたもの(CGを駆使し、どちらかといふと原作者の意向が活かされた感じ)とが、抱き合はせで販賣されてゐるやうです。どちらがお薦めかといふと、私は、「説明」や「お化け屋敷的要素」が極力省かれてゐる、公開當時の方をお薦めします。
ストーリーは、大したことはありません。少女が惡靈に取り憑かれ、それを祓ふ、それだけです。ところが、取り憑いた惡靈が、とんでもないのです。
まづは、惡靈がやってきたことを知らせるため、教會の○○○像(私はキリシタンではないですが、この先があまりに酷いので伏せ字)が汚されるシーンで打ちのめされます。「汚される」って、「よごされる」ではないです、「けがされる」のです。朝、神職がハナを飾りに教會に入ると、○○○像の胸はミサイルみたいに飛び出し、股間には巨大な一物がズドーンとあり、血に塗れてゐます。「な、なんてことだ」と打ちのめされてしまひます。
やがてこの惡靈は、一人の少女に取り憑き、猛威を振るひます。具體的にどんなことをするのかといふと… ここから先はかなりショッキングなので、續きを讀みたい人だけどうぞ。特にキリシタンは、讀む事自體が罪になるかも知れませんので、ご注意を。
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侯孝賢監督作品「風櫃の少年」
- 2008/04/04(金) 02:23:56
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LDで鑑賞。侯孝賢監督自身が「自分の映畫の中で何度見ても自信を持って觀ることができる唯一の作品」と言ってゐる作品。
澎湖島風櫃の不良3人組が、徴兵を前に臺灣本島の高雄(臺灣第二の大都市)へ繰り出す。田舎では肩で風を切ってゐた三人が、都會へ出るなり、急に幼く映し出され、チンケな詐欺親父にあっさり騙されたりする。大きな成功も大きな失敗も、大きな喜びも深い悲しみもない。主人公の沈黙に「どいつもこいつものん氣に構へてゐるなら、おれは不安になってやる。」「不安がなければ不安を發明してやる、これが青年の特權である。」といふ小林秀雄氏の言葉(青年と老年)を思ひ出す。この主人公らの姿に、二度と取り戻せない、みずみずしい人生の初夏を感じさせられる。
主人公が黙して語らないカットには、ギリシアのテオ・アンゲロプロス氏と似た雰圍氣を感ずるものの、やはり何かが違ふとも感じられる。アンゲロプロス氏の作品を觀ると辛くなり、身體が冷え切る心地がする。これをもう一度觀ようするには時間を要する。侯氏の作品を觀ると、味はひ深い悲しみに満たされ、心が温まり、何度も繰り返して觀たくなるのである。
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